初恋ナミダ。


『今日は? 調子どう?』


葛城さんの声が聞こえて、映されている先生は文庫サイズの本を読みながら『昨日よりは楽だよ』と答えた。

先生の声に、私の胸が切なく震える。

カメラの中の葛城さんは、何を読んでるんだとか、外出許可は出るのかとか、椎名先生にたくさん話しかけていて。

そんな葛城さんに、先生は本に視線を落としたまま短い言葉で答えていく。

『ああ』とか『いや』とか、そんなのが何回か続いた時だった。


『遥ちゃんのことが好き?』


質問内容に驚いた私は、椎名先生の様子を食い入るように見つめる。

先生は葛城さんに視線を向け、少し睨むようにしてから『引っかからないぞ』と言った。


『残念。でもまあ、好きなんだろ』

『うるさい』

『会えばいいのに。会って、ちゃんと伝えれば? 今度こそ、後悔しないようにさ』

『黙れ。もう切れ』

『はいはい』


葛城さんは少し呆れた声で返事をすると、ボタンを押したようでカチッと音が聞こえた。

……けれど、押し間違えたのか、録画はまだ続いている。


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