初恋ナミダ。


ゴトリとハンディカメラがベッドサイドテーブルの上に置かれ、少し傾いたまま、椎名先生の姿を正面から写していた。


『要、真面目な話さ、このまま会わないでいいの? あの子の気持ち、気づいてないわけじゃないだろ?』


カメラが回っていることに気付かず、葛城さんはとんでもない質問を先生にする。

先生は、僅かに瞳を揺らしてから。


『治ったらと決めてる』


質問に対して否定せず、ページを捲る。


『……治らなかったら? 彼女がいつか知ったら要みたいに後悔するかもよ』


先生の後悔。

それは、七瀬さんのことだろう。

先生は答えない。

静かに、本を見つめているだけ。


『ごめん、嫌な言い方した。コーヒー買ってくるよ。体調良さげだし、お前もなんかいる?』

『いい』


素っ気なく遠慮した先生に、葛城さんが『そう?』と返すと、ドアを開けて出て行った音がした。


< 256 / 263 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop