初恋ナミダ。
「もしかして、もううつしちゃったんじゃ……」
こんな短時間で椎名先生にうつるなんて、とんでもない感染力だと密かに驚愕してると。
「いや、少しむせただけだ」
先生は小さく頭を振って鞄を手にした。
「一応ご両親に体調のことを連絡しておくんだぞ?」
「はい」
帰るのだろう。
先生は腕時計で時間を確認すると「それじゃあな」と踵を返した。
ありがとうございました。
そう、言うつもりだったのに。
「ひとつ、聞いていいですか?」
私の口からは全然違う言葉が出てきていた。
「……答えるかどうかは内容による」
足を止めた椎名先生が振り返る。
その視線が私を捉えたほんの数秒後……
「どうして、海が嫌いなの?」
熱に浮かされて声になったのは、深く考えないようにしようと決めたはずの疑問だった。