初恋ナミダ。
*クッキー
職員室の空気はちょっと苦手だ。
別にタバコの匂いがするからとか、そういうことではなくて。
雰囲気っていうんだろうか。
教師という職業にたずさわる大人たちの拠点というイメージがあり、居心地が悪いのだ。
そんな苦手な職員室の入り口で、中の様子を伺う私。
目的の人物はもちろん椎名先生。
手に下げてる小さな紙袋に入っているのは、昨日の夜に焼いたクッキーだ。
見栄えは至って普通だけど、男の人が食べるならと考えて甘さ控えめにした。
ラッピングも家に残ってたものでやったから特別感はないけど、メッセージカードもつけてみたり。
舞子用にといくつか買ったカードだから、ちょっと可愛らしすぎるんだけど……まあ、気持ちが肝心という事で。
絆創膏だって貼ってくれたし、と数日前のことを思い出して私は頬を緩めた。
「……ていうか、椎名先生いないなぁ」
お昼休みだし、職員室にいるかもと思ったんだけど、もしかして数学準備室の方だろうか。
とりあえず壁に貼られている座席表で椎名先生の席を確認する為、小さな声で「失礼します」と告げて職員室に足を踏み入れる。