初恋ナミダ。
「椎名せーんせ」
いかにも女を武器にしているような甘ったるさのある声で椎名先生に話し掛けてきたのは、養護教諭の宝生(ほうしょう)先生だ。
宝生先生はふんわりとしたボブカットの髪を揺らしながら、うるんだ瞳で白く小さ目のケーキ箱を椎名先生に差し出した。
「良かったら食べてください」
「これは?」
椎名先生は受け取らず、中身を口頭で確認する。
「前に話したケーキ。椎名先生の為に作ってみたの」
そう言って、宝生先生はケーキ箱を開いて中身を見せた。
そこには、まるでケーキ屋さんに売られているような完璧なデコレーションのイチゴやブルーベリーの乗ったタルトケーキが2つ。
あまりのいい出来に思わず「凄い」と漏らせば、宝生先生がにっこりしながら私を見た。
「ありがと、宮原さん。宮原さんは椎名先生に用事?」
「えぇっと……」
宝生先生に尋ねられ、私は言葉を濁した。
だって、こんな立派なケーキを前にしたら、私の作った普通過ぎるクッキーを渡すな
んて出来そうになくて。
「ちょっと数学のことで。でも、もう大丈夫です」
自己解決したと続け、結局私は本来の目的を誤魔化してしまった。