初恋ナミダ。
「そうなのね。それじゃ椎名先生、良かったら感想聞かせてくださいね」
流行の色のルージュがひかれた唇に笑みを乗せ、宝生先生はケーキ箱を椎名先生のデスクに置くと、白衣の裾をなびかせ職員室を出て行った。
椎名先生はその背中を見送ると、視線を私に向ける。
「授業でわかりにくかったか?」
問われて、誤魔化しましたとは言えず。
「あ……いえ、私の頭がアホなだけなので」
あははと曖昧に笑ってやり過ごす。
「あの、それより風邪……やっぱりうつしちゃったみたいで、ごめんなさい」
「風邪……?」
「それ、薬があったから」
指差さした先には、薬袋。
椎名先生は一瞬だけハッとしたように目を丸くしたけど、すぐにクールさを取り戻して。
「気にしなくていい。これは宮原のせいじゃないんだ」
話しながら、薬袋をデスクの引き出しにしまった。