紺色の道が終わる場所[短編]
僕の彼女

紺色の道

「あ。飛行機雲」

見上げた先には、青々と輝く空と、まっすぐに白線を延ばす飛行機雲。
彼女につられて空を見上げた僕は、足をとめてしまったのだけど
彼女はぷらぷらと、とてもゆっくり歩いていく。
川沿いに伸びる、濃い紺色のコンクリートで固められた、堤防の上。


紺色のブレザーに、少々長めの黒髪の、コントラスト。
後姿は意外と小さい。
だけどきっと、僕よりは大人なんだろう。根拠はないけれど。


僕は再び歩き出す。3歩ほどでまた、彼女の左隣に並ぶ。
「明日は雨だね」
僕より大人なはずの彼女に言ってみた。
「そうなの?」
彼女は視線を僕へと移す。
「うーん、飛行機雲がよく見えた次の日は、雨だっていわない?」
僕はしばらく飛行機雲を見つめてから、知った風なことを言って
彼女を見る。



目があう。



「うーん」
彼女は僕と同じようなトーンで言う。
お互いに足は止まっていて、彼女がそれ以降なにも言わないので、僕らは見つめあったまま、なんとなく沈黙。
そんな沈黙の中、僕は、右手を伸ばしてみる。
彼女の左手をそっと握ると、彼女もそっと応えてくれる。
どちらからともなく、また歩き出した。


「ねえ」
つないだ手から伝わる、彼女の冷たさと温かさ。
綺麗な唇からこぼれる、僕の好きな言葉たち。
「うん?」
なんとなく空を見上げながら聞き返す。
僕らの背中にある太陽が、ぽかぽかと僕らを暖めている。



「好き」



少々の間をあけて、彼女は言った。
緊張したのか、照れたのか、
それともあふれ出しそうな何かをこらえているのか
つないだ手は、かすかに震えている。



「うん、好き」



少々の間をあけて、僕は言った。
彼女が立ち止まる。
僕も立ち止まる。


10メートルほど先には、車両進入禁止の黄色いバー。
その少し先には、左右にかかる、少しだけ大きな橋。
となりをゆるゆると流れる川を越えるために、かけられた橋。


この堤防の、終わる場所。
< 1 / 4 >

この作品をシェア

pagetop