ほたるの初恋、消えた記憶
お互い空を見つめ無言のままでいた。


「もう何処にも行かないと約束するから、俺を信じてほしいんだ。」


信じるって、何を。


もしかしたら、10年前も同じような約束をしたのだろうか。


何も分からない。


「俺はこの町が好きだから、これからもこの先もここを離れるつもりはないから。」


この町を好きだと言う祐吾。


嬉しいけど素直に喜べない。


祐吾の父親は大きな会社を経営してる人で、祐吾をこの小さな町に置いておくだろうか。


兄の誠也さんが会社を継ぐと祐吾は言ったけど、そんなに簡単な事ではないと思うし。


あかりさんの存在も祐吾が決められないように思える。


祐吾には幸せになってほしい。


私はこの小さな町で生きて行くつもりだから。


「あのね、私にはこの町に祐吾を縛る事は出来ない。祐吾は自分の世界で思う存分活躍して欲しいと思う。」


祐吾が驚いた顔で私を見た。


そんな泣きそうな顔をしないでよ。


ほたるが又泣いてると私を抱きしめた。


泣いてなんかいないのに。


祐吾に何処にも行かないでと、素直に言えたらどんなにいいか。


でも、そのことばは絶対言えないと思った。


祐吾の幸せはこの町にはないもの。











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