ほたるの初恋、消えた記憶
祐吾が学校を休んで一週間過ぎた頃、青木さんにお屋敷に行きたいとお願いした。


お屋敷の庭にもう一台車が止まっていて、多分祐吾の父親の車だと思う。


「ほたる様、家の中の様子を見て来ますので車の中でお待ち下さい。」


分かりましたと頷くしかなかった。


どのくらい待ったのか分からないが、玄関から男の人二人が出て来て、その後ろに祐吾の姿が見えた。


一人は祐吾の父親親ではないかな。


その父親らしき人が祐吾に向かって、怒鳴った。


「いつまでもそんな事を言って、お前は宮東家の跡取りに変わりはない。いい加減諦めて東京へ戻って来るんだ。」


祐吾は首を左右に振った。


「僕は二度とこの町を離れるつもりはありません。宮東家の跡取りは僕でなくて、兄さんに継がせればいいんです。」


青木さんが間に入って、祐吾を止める。


「いつまでもお前は変わらないな。あの子を守りたいのか。あんな小娘などどうにでも出来る。」


「あの子に何かしたら今度こそ許さない。」


あの子?


車から出ようとしたら、青木さんが駄目だと目で訴えて来た。


この人、確か前にも会ったような気がする。


いつだったか分からないけど。


「祐吾を見張っておけ。祐吾には婚約者がいることを忘れるな。」


祐吾に婚約者。


17才の祐吾に婚約者がいた。


御曹司だから、婚約者がいるのは当たり前なんだろうけど。


祐吾とは世界が違う。


これ以上近づいたら駄目だ。


庶民は家に帰ろう。


祐吾に近づくと、祐吾の立場が悪くなるに違いない。


計り知れない、お金持ちの世界。


子どもの私には理解出来そうもなかった。
































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