ほたるの初恋、消えた記憶
民宿のホームページに流しそうめんがあることを載せると、やってみたいと宿泊者が増えた。


宿泊者が増えるのは嬉しいけど、毎日民宿の仕事に終われて、夏休みの課題がやれない。


剣道部の合宿も終わればみんなは帰って行くし、これ以上甘えられないな。


野菜畑でそんな事を考えていると、祐吾が隣に座った。


「暑いな。」


うん。


民宿の仕事は大変だけど、好きだ。


「勉強も運動も好きじゃないし、高校も行きたくなかった。中学卒業して民宿の手伝いしようと決めてたの。」


祐吾が頷く。


「母さんはお腹に私がいて高校をやめたから、どうしても高校へ行ってほしいと言われた。」


そんなの母さんの勝手だと思って、嫌々高校へ行ったんだよね。


「1年生の時は不登校で止めようと思った。」


祐吾が私の手を握った。


「今は高校止めなくて良かったと思ってる。それは祐吾に会ったからだよ。」


祐吾は初めてじゃないと言ったけど、ごめんね。

まだ、10年前の事は思い出せてない。


祐吾がありがとうと言った。


「無理に思い出さなくても良いと言ったろ。たとえ思い出せなくても良いから。」


あんなにやな奴と思った祐吾が、今の私にとって大切な存在だと感じているのは確かで、その次の気持ちに進めたらいいなと思ってる。


祐吾の隣にいたい。


「夏休みの課題一緒にやってほしいんだけど、頼めるかな。」


最初からそのつもりだと言われたから、笑ってごまかした。


合宿最後の夜はみんなで浴衣を着て花火大会。


大学生がいたことをすっかり忘れていた。





















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