ほたるの初恋、消えた記憶
その日の夕方、青木さんが祐吾を迎えに来た。

多分祐吾の父親が帰って来たのだと思う。


青木さんが車から下りてきた。


「大丈夫ですよ。そんな顔をしなくても、祐吾様はこの町を二度と離れることはないですから。」


私はどんな顔をしてたのだろ。


青木さんにも聞きたい事がたくさんあるけど、勇気がなくて聞けない。


「一つだけ教えてください。青木さんは祐吾のお兄さんなんですよね。」


青木さんは直ぐに答えてくれなかった。


「そうですね、母親が違う兄弟になりますが、宮東祐一郎が俺の存在をどう思ってるのか分かりかねます。」


私が知りたいのは、祐吾が父親の仕事を継ぐのか。


この町を二度と離れないと祐吾は言うけど、父親がそれを許すだろうかと思う。


「宮東祐一郎と母は幼馴染みで、婚約者がいたのに駆け落ちをして姉と俺を生んだんです。」


青木さんは私に背を向けて淡々と話続けた。


「結局宮東祐一郎は母を捨て、親が決めた婚約者と結婚しました。でも、その婚約者の方、祐吾の母親が私たちをあのお屋敷に引き取ってくれたのです。」


最後に青木さんが言った。


祐吾は父親の宮東祐一郎とは違います。


全力であなたを守る覚悟でいますから、あなたは祐吾を信じてあげてください。


青木さんは話終えると、何もなかったかのように車に乗った。

いつの間にか、祐吾がいた。


今の話を聞いていたのかな。


祐吾は何も触れずに、又明日と言って帰って行った。


去っていく車に向かって叫んだ。


《信じてる、祐吾を信じてるから!》


青木さん、話してくれてありがとう。


少しだけ気持ちが楽になった。



























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