ほたるの初恋、消えた記憶
そこまで聞いても私は何も思い出せなかった。


幼稚園の頃の写真を見ても祐吾は何処にもいない。


あのお屋敷で遊んでいたと言うけど、全く記憶にないのだ。


ただ祐吾の父親だけはなんとなく覚えてる
気がするだけで、それも実際定かではない。


全てが曖昧ではっきりしないけど、あのお屋敷にあった大きな木だけは覚えていた。


祐吾のお母さんも分からないし、青木さんのお母さんも覚えていない。


あの日、本当の事を言えばほたるがケガをすることもなかったと言うけど、過ぎてしまったことはもういいんだよね。


祐吾の記憶はないけど、又こうして会えたから、良いのではないだろうか。


祐吾も許してくれると思う。


気になるのは青木さんのお母さんの事だ。


「私を助けてくれた青木さんのお母さんの話を聞きたい。」


その話は青木さんが話してくれた。


祐吾のお母さんが誠也さんと七海さんをお屋敷に引き取った時、心臓が弱かった青木さんのお母さんをこの町の病院へ入院させたらしい。


あの日祐吾のお母さんは祐吾の父親を許せなくて、離婚を決めて一人で東京へ帰るつもりでいた。


それを聞いて青木さんのお母さんが止めようとお屋敷を訪ねたが、すでに祐吾とお母さんはお屋敷を出て行った後だった。


青木さんのお母さんは自分を責めていたと言う。


自分の存在が祐吾とお母さんを不幸にしたと嘆き悲しんでいたのだ。


今なら少しだけ分かるけど、本当に複雑な家庭だと思う。


複雑な家庭環境で育った祐吾と誠也さんと七海さん。


胸が傷む。


10年前に戻れるものなら戻りたい。


戻ってどうしたいのか、分からないけど。

































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