*武士の花*~花は桜木、人は武士~
~渉~


椿「おかえり……」

渉「ただいま」



俺の様子で色々と聞かなくても、椿は察してくれた



椿「こんなに可愛い子を……」


俺の代わり? 椿は、泣く

渉「ばかばかしい…」


泣いてる椿を置いて、部屋に行く

前は、2階の女部屋

今は、下の男部屋


着物を脱ぎ捨て、男姿に戻る

井戸で顔を洗い


部屋に戻る


渉「蓮見か?」


天井から、蓮見が降りてくる


蓮「辰巳が……渉未を破門にしたことで
仲間に責められてるんだ」


何も返事をせずにいると


蓮「仲間に襲われた渉未が破門なんて、おかしいじゃないか!!
なんで、渉未も異議申し立てせずに出て行ったんだよ!!」


渉「見抜かれたんだ
俺が…男に触られることに恐怖心があって… 抵抗できないって…
だから… 2度と俺が襲われないように
破門にしたんだ
辰巳は、この決断で、仲間の反感を買ってでも…俺を守ってくれたんだ
蓮見……辰巳を信じていてほしい」


蓮「戻ってこいよ」


渉「ごめん」




蓮見がいなくなった部屋









油断すると、込み上げる涙を流すのが嫌で

ぐっと堪える


堪える度に、胸がぎゅうっと絞められる


泣くもんか






俺は、渉だ






男だ







泣くもんか








働いているうちは、紛れる


だから…昼も夜も働いた


元通り……



そう、元通り…



何もなかった





初恋もしなかった


恋もしなかった


誰にも体をあげず


子を失うこともなく


忍になることもなく


先を見る力もなく




油断すると、崩れそうになるから

痛む胸も、息苦しさも


何もないことにした











何もないことが、幸せだと想うことで

必死に自分を支えた








俺は、ひとり






まだ、誰も迎えに来ないから


















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