鬼に眼鏡
「むー……雅夫の顔ってさ、見慣れてくると癖になるんだよね」
 目を細くしてしばらく考えていた玲奈が、さらりと流すように言った。
「俺の顔は中毒物質ですか……」
 言われた雅夫も、玲奈と同じように目を細くしてつぶやく。
「それに雅夫が優しいってことは私も知ってるし……だから、一緒にいて楽しいんだよね。雅夫が他人からどう見られててもさ……」
 玲奈の意外な答えに雅夫は内心驚いていた。あの玲奈が自分を褒めてくれているのだ。
「けど就職活動はそうはいかないでしょ? 性格は二つ目で、まずは第一印象からだから。雅夫を知ってもらうためにはまず面接突破して、仕事を一緒にして性格を理解してもらうのが大事なんだよね……悲しいことにそれが現実だから」
「お前、時々良いこと言うな……」
 雅夫が玲奈を褒めた時、一駅目に着いて近くの扉から二人の男が乗りこんできた。
 一人はスキンヘッドに口ピアス、もう一人はバンダナ。そして車中だというのにくわえ煙草をしている。
 乗客全員が見てはいけないものを見てしまったというように、視線をそらす。
 誰がどう見ても男たちの容姿はやくざそのものだった。煙草の火はついていないから、車掌を呼ぶ訳にもいかない。呼んだら呼んだで逆恨みされるかもしれない。
 同じ車両に居合わせてしまった者たちの心は、多分こんなところなのだろう。
「だから、あの爺さんに言ってやったんだよ。どうせ老い先短いんだから、保険金掛けて早く死んでくれって……そうでなきゃ、息子さんの会社に遊びに行くってさ」
 吊革二つに手首を通したスキンヘッドの男が、車中全体に響き渡るほどの大きな声で、仲間に話をはじめる。
「まだ粘ってんの? あの爺さん。ほんと、死んでくれたほうがうちのためになるのに」
 話の内容からして、明らかに男たちは暴力団に違いなかった。
 男たちの声がするだけで、車内は沈黙し、異状なまでの緊張感と静寂に包まれる。
 雅夫も早く目的の駅に着いてくれと念じながら、視線を下に落とし切り抜けようとした。
 おとぼけ系の玲奈も、この空気は察知したのか、お淑やかなキャラに変身している。
 このまま何事もなければ、目的地はあと少し――雅夫がそう思った時、
「あれ? 宮本さん? 宮本さんですよね?」
 スキンヘッドの男が突然、雅夫に話しかけてきた。
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