鬼に眼鏡
「お前が、責任者か!」
男が面接官に向かって叫んだ途端、雅夫は気づいた。
一人はスキンヘッドに口ピアス、もう一人はバンダナ、そしてくわえ煙草。
入ってきた二人の男たちは、眼鏡を買う時に電車で会った、あのヤクザっぽい男たちだった。
また関係者だと思われたら、採用も白紙になると感じて雅夫は咄嗟に顔を伏せる。
「今、お宅が建設工事している場所はな。うちが契約しているんだよ! それを横から奪い取るような真似しやがって。ここは不当行為をする会社か! 情報ばら撒くぞ!」
根も葉もない、それは男たちの脅しであった。悪い評判をばら撒かれれば、損害になるのは会社側のほうである。
「ちょっと! 根拠はあるのか? そちらが持ってる契約書は?」
だから、会社側も黙ってはいない。冷静な反論を男たちに突き返した。
「契約の最中にお宅らが割りこんだんだ! あるわけないだろ!」
顔を見合わせた男たちが、更なる追撃言葉を叫ぶ。
「なら――」
雅夫の話を聞いてくれた面接官が、言いかけた瞬間だった。
「うるせえ!」
スキンヘッドの男の右拳が、面接官の顔面に炸裂していた。倒れ込む音と、女性の悲鳴が会議室にこだまする。
「言ったろ! こっちが被害者なんだ! 誠意を見せてくれなきゃ、俺たちは収まりがつかないんだよ! 出るとこ出るか?」
強気の男たちに、会社側は押されつつあった。揉め事で裁判沙汰になれば、それが正当であれ不当であれ、会社の信用を低下させるのは明白である。
何も背負っていない男たちはマイナスになることはない。それを知っているからこそ、男たちは脅しをかけてきたのだ。
彼らの言う『誠意』とは、『金』を示しているに違いなかった。
そんな一部始終を見ながら、雅夫は男たちに対し、抑え切れない怒りを感じはじめた。
どうしても、見てるだけではいられなかった。
「もし、あんたたちが出るとこ出るって言うなら、俺は第三者として証言台に立つよ。あの男たちは会社の人を殴って、金を要求したって……」
話術に長けている玲奈を相手しているだけに、雅夫は男たちを言い負かす自信があった。
しかも、会社の関係者でないということが、今の雅夫にとっては大きな武器だった。
暴力の事実が明るみになれば、当然、男たちのほうが不利になる。一瞬にして彼らの顔つきが変わった。
「出しゃばるんじゃねえよ!」
言い返す言葉がなくなった苦しまぎれからか、男は雅夫も殴り飛ばした。
壁に激突しながらも、雅夫は体を起こす。殴り合いの兄弟喧嘩に慣れているせいか、男のパンチより、兄である遼平のパンチのほうが強く感じていた。
「少しばかり、頭が働くからって調子に――」
その時、スキンヘッドの男がぴたりと動きをとめた。バンダナの男も体を震わせている。
下唇に痛みを感じて、雅夫は手で触れた。微かに鮮血が付いている。唇を切ったらしいというのがわかった。
男が面接官に向かって叫んだ途端、雅夫は気づいた。
一人はスキンヘッドに口ピアス、もう一人はバンダナ、そしてくわえ煙草。
入ってきた二人の男たちは、眼鏡を買う時に電車で会った、あのヤクザっぽい男たちだった。
また関係者だと思われたら、採用も白紙になると感じて雅夫は咄嗟に顔を伏せる。
「今、お宅が建設工事している場所はな。うちが契約しているんだよ! それを横から奪い取るような真似しやがって。ここは不当行為をする会社か! 情報ばら撒くぞ!」
根も葉もない、それは男たちの脅しであった。悪い評判をばら撒かれれば、損害になるのは会社側のほうである。
「ちょっと! 根拠はあるのか? そちらが持ってる契約書は?」
だから、会社側も黙ってはいない。冷静な反論を男たちに突き返した。
「契約の最中にお宅らが割りこんだんだ! あるわけないだろ!」
顔を見合わせた男たちが、更なる追撃言葉を叫ぶ。
「なら――」
雅夫の話を聞いてくれた面接官が、言いかけた瞬間だった。
「うるせえ!」
スキンヘッドの男の右拳が、面接官の顔面に炸裂していた。倒れ込む音と、女性の悲鳴が会議室にこだまする。
「言ったろ! こっちが被害者なんだ! 誠意を見せてくれなきゃ、俺たちは収まりがつかないんだよ! 出るとこ出るか?」
強気の男たちに、会社側は押されつつあった。揉め事で裁判沙汰になれば、それが正当であれ不当であれ、会社の信用を低下させるのは明白である。
何も背負っていない男たちはマイナスになることはない。それを知っているからこそ、男たちは脅しをかけてきたのだ。
彼らの言う『誠意』とは、『金』を示しているに違いなかった。
そんな一部始終を見ながら、雅夫は男たちに対し、抑え切れない怒りを感じはじめた。
どうしても、見てるだけではいられなかった。
「もし、あんたたちが出るとこ出るって言うなら、俺は第三者として証言台に立つよ。あの男たちは会社の人を殴って、金を要求したって……」
話術に長けている玲奈を相手しているだけに、雅夫は男たちを言い負かす自信があった。
しかも、会社の関係者でないということが、今の雅夫にとっては大きな武器だった。
暴力の事実が明るみになれば、当然、男たちのほうが不利になる。一瞬にして彼らの顔つきが変わった。
「出しゃばるんじゃねえよ!」
言い返す言葉がなくなった苦しまぎれからか、男は雅夫も殴り飛ばした。
壁に激突しながらも、雅夫は体を起こす。殴り合いの兄弟喧嘩に慣れているせいか、男のパンチより、兄である遼平のパンチのほうが強く感じていた。
「少しばかり、頭が働くからって調子に――」
その時、スキンヘッドの男がぴたりと動きをとめた。バンダナの男も体を震わせている。
下唇に痛みを感じて、雅夫は手で触れた。微かに鮮血が付いている。唇を切ったらしいというのがわかった。