鬼に眼鏡
 林玲奈――高校三年生女。身長百四十八センチ、体重四十キロ。
 クラスで一番小柄で、級友男女が可愛いと認める容姿と体系。小柄の体格から、教卓の前の席になった年、教師に気付かれないまま一、二学期と過ごした過去を持つ。
 趣味はアイドルの追っかけ(主にジャニーズ系)。特技は商品の値引き(標的は男性店員に限る)。
 小学生の頃、学級委員長をし、中学生の頃、題名『私の夢は大食いアイドルになること』の作文を書き、男子全員から「やめて! 太った玲奈ちゃんなんて見たくない! そうしてくれないと俺たち、死んじゃう!」との声を大量に受けて、夢をあっけなく断念する。
 小学生の頃のあだ名は『うさぎ』。中学生の頃のあだ名は『リス』。
 そして、現在のあだ名は『れなな』――雅夫とは正反対である愛らしいあだ名の数々は、玲奈が可愛さのみで逆境を乗り越えてきた人間だからである。
 しかし彼女は知らない。自分が何故、そんな子供じみたあだ名で呼ばれているかを。
 だから今日も誘ったのだ。強面の隣人、猪狩雅夫を――
 静かに息を吐いた雅夫は、玲奈のほうに目を向ける。
「中学の頃、お前と買い物に行った時のこと、覚えているか?」
「……まだ、あんなこと引きずってんの? 女々しいなぁ……」
「うるさい! 俺にとっては、苦い思い出なんだよ!」
 人事のように言う玲奈に、雅夫は強面の顔を更に一段階レベルアップさせて叫ぶ。
 高校三年生の今になっても、脳裏に消えることなく刻みこまれた、悲しい出来事を雅夫は鮮明に覚えている。
 それは、中学三年生の頃、今と同じように玲奈の我が儘からはじまった。
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