鬼に眼鏡
たとえ第三者全員が認める常識外れの凶悪顔でも、雅夫の性格は常識人である。
だから玲奈が、「窓から入ればはやいよ」と道のショートカットを勧めても、雅夫は家を出て玲奈の家の玄関から入り、ちゃんと玲奈の両親に挨拶をして、玲奈の部屋に入室した。
時間にして約三分のロスだが、ここは小説の世界。数行で語り切れるのが素晴らしい。
――さて、それでは内容に進むとしよう。
雅夫が部屋に入った時、玲奈は机の前でパソコンを打っていた。
とはいってもネット情報や書類を開いているのではなく、写真加工画面を見ている。
「雅夫! 見て、見て! どう思う? この私」
玲奈が指差した画面の中には、玲奈とは思えない人物がいた。
「まじ? これ、お前なの? 何か、別人じゃん……」
乗り出した雅夫は画面を見つめて、思わず驚きの声をあげる。
そこには、いかにも気が強そうなキャリアウーマンといった感じの女性の顔があった。
「こっちより、こっちのほうがいいかな? 雅夫、どう思う?」
次の画面を玲奈は出し、もう一人の自分を映し出していた。
「……また、こっちのは、勉強熱心な控えめな子って印象があるな」
雅夫は印象の全く違う玲奈を見て驚いていた。
女性は化粧をすれば変わるというが、それと比較にならないほどの変わりようだったのだ。
「眼鏡……眼鏡のせいか? だって、同じ眼鏡なのに何で……あ! 縁の違いか! 縁の違いだけで印象こんなに変わるのかー」
雅夫は自分で結論を導き出して、自分で納得してしまう。
「あのさ。どう感じるかとかじゃなく、選んでほしいの。これで短大に行くから……」
質問とは異なる発言を続ける雅夫に、玲奈が痺れを切らしたように言う。
「……なに? お前、目が悪かったっけ?」
「違うの……イメチェン。私、この顔だと、軽くて馬鹿そうな女って見られるみたいでさ。だから、第一印象変えたいの……これならはじめから、皆に馬鹿にされることないじゃない?」
「考えたなー」
玲奈のアイデアに雅夫は感心した。確かに自分の性格を知ってくれている相手なら、顔だけで判断されることはないから、今まで通り接していけばいい。
しかし、環境が一転、周囲の人全員が知らない者同士となれば勝手が違ってくる。
互いに「こいつは気が強そうだから近寄りたくないな」とか、「こいつは気が弱そうだ」とかの、はかり合いになる。
教育の場から出れば、そこは競争社会。誰もが一番に見られたいと必死のはずだ。
玲奈はそんな競争社会で少しでも優位に立ちたいと考えた末、眼鏡を掛けてみるという選択に達したのであろう。
「学校に行く方向なら、こっちのほうがいいんじゃないか? 就職するのなら別だけど……」
二つ目の映像を指差しつつ、言った雅夫はぴたりと動きをとめた。
そして笑みを浮かべる玲奈と視線の焦点が合う。それは、視線が一致しただけでなく、思考も一致した瞬間だった。
だから玲奈が、「窓から入ればはやいよ」と道のショートカットを勧めても、雅夫は家を出て玲奈の家の玄関から入り、ちゃんと玲奈の両親に挨拶をして、玲奈の部屋に入室した。
時間にして約三分のロスだが、ここは小説の世界。数行で語り切れるのが素晴らしい。
――さて、それでは内容に進むとしよう。
雅夫が部屋に入った時、玲奈は机の前でパソコンを打っていた。
とはいってもネット情報や書類を開いているのではなく、写真加工画面を見ている。
「雅夫! 見て、見て! どう思う? この私」
玲奈が指差した画面の中には、玲奈とは思えない人物がいた。
「まじ? これ、お前なの? 何か、別人じゃん……」
乗り出した雅夫は画面を見つめて、思わず驚きの声をあげる。
そこには、いかにも気が強そうなキャリアウーマンといった感じの女性の顔があった。
「こっちより、こっちのほうがいいかな? 雅夫、どう思う?」
次の画面を玲奈は出し、もう一人の自分を映し出していた。
「……また、こっちのは、勉強熱心な控えめな子って印象があるな」
雅夫は印象の全く違う玲奈を見て驚いていた。
女性は化粧をすれば変わるというが、それと比較にならないほどの変わりようだったのだ。
「眼鏡……眼鏡のせいか? だって、同じ眼鏡なのに何で……あ! 縁の違いか! 縁の違いだけで印象こんなに変わるのかー」
雅夫は自分で結論を導き出して、自分で納得してしまう。
「あのさ。どう感じるかとかじゃなく、選んでほしいの。これで短大に行くから……」
質問とは異なる発言を続ける雅夫に、玲奈が痺れを切らしたように言う。
「……なに? お前、目が悪かったっけ?」
「違うの……イメチェン。私、この顔だと、軽くて馬鹿そうな女って見られるみたいでさ。だから、第一印象変えたいの……これならはじめから、皆に馬鹿にされることないじゃない?」
「考えたなー」
玲奈のアイデアに雅夫は感心した。確かに自分の性格を知ってくれている相手なら、顔だけで判断されることはないから、今まで通り接していけばいい。
しかし、環境が一転、周囲の人全員が知らない者同士となれば勝手が違ってくる。
互いに「こいつは気が強そうだから近寄りたくないな」とか、「こいつは気が弱そうだ」とかの、はかり合いになる。
教育の場から出れば、そこは競争社会。誰もが一番に見られたいと必死のはずだ。
玲奈はそんな競争社会で少しでも優位に立ちたいと考えた末、眼鏡を掛けてみるという選択に達したのであろう。
「学校に行く方向なら、こっちのほうがいいんじゃないか? 就職するのなら別だけど……」
二つ目の映像を指差しつつ、言った雅夫はぴたりと動きをとめた。
そして笑みを浮かべる玲奈と視線の焦点が合う。それは、視線が一致しただけでなく、思考も一致した瞬間だった。