私の上司

彼の家




二人で並んで歩く駅までの道はいつもよりずっと近く感じた。




『でもまさか一ノ瀬さんが買ってくれるとは思ってませんでしたよ!』








ギュッと胸に抱きしめるウサギさん。






一ノ瀬さんがわざわざ買ってくれたなんて…
嬉し過ぎて。









「…たまたま時間が空いたから買っただけだ。」







素直じゃない返答さえも、

愛おしく感じてしまう。







『…本当、嬉しいんですよ。』








私が一ノ瀬さんに笑顔を向けると
彼も優しく微笑んでくれた。






くぐった改札の先はお互い別々。




いつもより少し名残惜しい別れに唇を噛んだ。







「…んじゃ気を付けて帰れよ。」








ネクタイを軽く緩めながら
私と反対方向に足を向ける彼のシャツの裾を引っ張ってみた。







「…どうした?一人は嫌か幼稚園児。」







いたずらっぽく私にそう笑いかける一ノ瀬さんは、

名残惜しくもなんとも無いの?







潤ってくる私の瞳を覗きこんで戸惑う彼には明日も会えるのに。









下を向いた私の頭をくしゃっと撫でた一ノ瀬さん。








「…今日、俺ん家来い。このまま。


…返したくねぇ。」







そんな事、
一ノ瀬さんに言われるなんて想像も出来なかったからより涙が溢れたのに







その後にギュッと抱きしめてくれるんだから
もう夢かもしれないと思って一ノ瀬さんの腕の中で瞼を閉じた。






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