私の上司
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お風呂から上がり、やっぱり少し大きなスウェットを着てからリビングに行くと

テレビを見る彼の横顔が目に入った。





私もその横に腰掛ける。

…肩と肩が触れ合うか触れ合わないかくらいの距離で。





テレビの内容かな?

一ノ瀬さんの肩が笑って揺れた。




『お風呂、広くて気持ち良かったです。』



私がそう言って笑顔を向けると無言で渡してくれるビール。




「やっぱ風呂上がりじゃん。」




『美味しいですよね。』





お酒弱いから控えめにしないとな、そう思いながら喉に通したビールはやっぱり美味しくて。


思わずため息が漏れた。






「あのさ…」





急にテレビを消して私を見る一ノ瀬さん。




『…はい?』





「お前って男の経験あんの?」






軽く一ノ瀬さんの口から零れた言葉は私を硬直させる。





『…ぇ…』





そんな私を見て小さく笑った。






「この年で全く無いなんて事は無いよな。
…夜の事。」





何も言えずに俯いてしまう。




…無いよ?




…一ノ瀬さんが初めてなのに。




男性経験なんて本当に無いの。







不安げに顔を上げた私の唇に、


一ノ瀬さんの柔らかい物が重なった。




『…んっ…はぁっ…』





酸素を求めて開いた口の隙間から入ってくる彼の舌。






激しいファーストキスの中で閉じてしまった目を開けると






櫻井さんと目が合った…









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