エスパーなあなたと不器用なわたし
「家、ここ?」
「はい」
「ご両親と一緒なの?」
「両親は離婚して、母と二人暮らしです」
「そっか。それじゃ、お母さん心配してるだろう?」
何故か部長も車から降りた。
「ありがとうございました」
「うん」
「それじゃ、失礼します」
「俺も行く」
「えっ?」
「お母さんに挨拶しなきゃ」
「えー!」
わたしより先に玄関の扉を開ける部長。
ちょっと待ってください。
部長、母に何というおつもりですか??
「ごめんください」
「は~い」
わっ、お母さんだ・・・
「はい? どちら様でしょうか?」
「わたくし、智子さんの上司の本村一樹と申します」
「まあ、智子の会社の方ですか。いつも智子がお世話になっております。あの、智子がどうかしましたか? 朝戻ったらうちにいなかったので、どこに行ったのかと心配しておりました」
「お母さん、朝戻ったって、夕べどこかに泊まったの?」
「あら、智子そこにいたの? あなたが忘年会で遅くなるって言ってたから、お母さんも友達と飲みに行ってたのよ。そしたら、ついつい飲み過ぎちゃって、目が覚めたら友達の家だった」
あはははと、豪快に笑う母。
わたし達、双子か!
どうして親子で同じ事しちゃうんだろ。
だけどここで、わたしもよ。
わたしも酔って部長の家に泊まっちゃったなんて言えない。
「お母さん、奇遇ですね。実は智子さんも送る途中のタクシーで寝てしまって、わたしの家に泊めました」
あ~言っちゃったよ。
部長、どうするのよ~~~
「あら、そうだったんですか? どうりで、ベッドに寝た形跡が残ってないと思ってたんですよ」
おいおいさらっと流すのか?
わたし、男の人の家に泊まったんだよ。
そこは、もっと動揺するとか、怒るとかするもんでしょ。
「勝手な事をしてすみません」
「いえいえ、謝るのはこちらの方です。智子がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「迷惑だなんてとんでもない。こちらこそ、智子さんを男の家に泊めたりしてしまって」
「いいんですよ。今まで彼氏も出来た事が無い子なので、少しは刺激を与えないとね」
「お母さん、何言ってるの!」
「いいじゃない。こんな素敵な上司の方と親しくなれたんだから。本村さん、良かったらこの子と付き合って頂けませんか?」
お、お母さん??
「えっ?」
ほら、部長も引いちゃったじゃない。
初対面の人に何て事言い出すのよ。
「あっ、ごめんなさい。本村さんのような素敵な方には、もう良い方がおられますわよね?」
「いえ、おりません。実は今朝、智子さんに告白したんです」
「えっ? そうなんですか? ちょっと、智子、良かったじゃない」
「待ってよお母さん。この人は同じ部署の部長なの。一番えらい人。そんな人とわたしが付き合えるわけがないでしょ!」
「どうしてだ?」
部長が真面目な顔でわたしを見てる。
ちょっと、怖いんですけど・・・
「どうしてって、もうバレたから言いますけど、母が言うように男の人と付き合った事もありませんし、どう接したらいいのかもわからないんです」
「だったら、俺と付き合って知っていけばいい」
「部長は、無理です」
「どうして?」
「どうしてって、どうしてもです」
「それ、ちゃんとした理由になってない」
「とにかく、わたしは部長とは付き合えません」
言っちゃった。
わたしと部長が釣り合うわけないじゃない。
もし付き合ったとしても、きっとすぐにがっかりさせてしまう。
仕事には慣れてきて少しは自信もついたけど、家事もろくに出来ず、凹んだ部長を慰めてあげる事も出来なかった。
こんなわたしに、部長の彼女がつとまるわけがない。
「塚本、お前始まる前から諦めてどうする」
「えっ?」
「楽しい事ばかりの恋なんて無いんだよ。辛かったり、傷つく事もあるかもしれない。それをひっくるめて、恋を楽しんでいくんだよ」
何?
この胸の痛み。
パチパチパチ
ちょっとお母さん、その拍手は何なのよ?
「本村さん、感動しました! わたしが付き合いたいくらいだわ」
「ちょっと気取った事言ってしまいましたけど、本当はわたしも大した男じゃないんです」
「そんな事ありませんよ。いや、本当に素敵だわ。智子にはもったいない。ねえ、どうして智子を好きになってくれたんですか?」
あっ、それ、わたしも聞きたかったかも。
何の取り得も無いこのわたしのどこが好きなの?
「智子さんは、真面目な人です。真面目過ぎて大丈夫かな、苦しくないかなと心配になる事もあります。不器用だけど、何事にも一生懸命取り組む姿に、パワーをもらっています。そんな彼女がほっとけないというか、守ってあげたいという気持ちが強くなって、気が付いたら好きになっていました」
部長・・・
そんな事思っていたんですか?
わたしの事なんか、目に入っていないと思っていました。
怒られる事も無く、わたしには無関心なんだと。
「ここがお前の部屋か」
どういうわけか、わたしは部長を部屋に通す羽目になった。
これもお母さんの策略だ。
わたしと違って、社交的、かつテキパキ星人の母は、部長を逃すまいとわたしもろとも部屋に押し込んだ。
あーあ、こんな事ならもっと片付けておくべきだった。
夕べから失態続き。
でも、自分をさらけ出しちゃったら、逆に部長と話しやすくなったかも。
「汚い部屋ですみません」
「ほんと、汚ねーな」
そんなにズバッと言わなくても・・・
「だけど、置いてある物は女の子らしくてかわいいよな」
えっ?
部長は、棚に置いてあったクマのぬいぐるみの頭を撫でた。
「触らない方がいいですよ。ほこりかぶってるかも」
「そうなのか?」
慌てて手を引っ込める部長。
ふふっ。
やっぱりずぼらなわたしとは合わないね。
「それにしても、塚本のお母さんって若いよな」
「若いっていっても三十八歳ですよ」
「三十八? いや、見えないな」
「そういう部長は何歳なんですか?」
「俺? 三十二だけど」
三十二?
へぇ~意外と若いんだ。
もっと上かと思ってた。
「おい、その表情は、もっと上かと思っていたな?」
「はい」
「ショック。だけど、確かに年より老けて見られるんだ」
「老けてるとは思ってません。落ち着いているし、身なりもいつもきちんとされてるし」
「ところでさ」
「えっ?」
急に真剣な眼差しになる部長。
どうしちゃったの?
「お前、柴田の事どう思ってる?」
「はぁ? 柴田春人くんですか?」
どうして今ここで、彼の名前が出るんだろう。
彼とは同期で、年は彼の方が二つ上だけど、緊張せずに話せる唯一の男性。
彼のリードが上手いのか、のんびり屋のわたしにペースを合わせてくれるのが上手いのか、とにかくストレス無しで話せる存在だ。
顔もそこそこカッコよく、真面目な顔から笑顔になる時のギャップにキュンとくる。
彼女がいるのかいないのか、その辺はさがかではないけれど、結構いいなと思っている。
「あいつの事、好きなのか?」
「えっ? いや、その・・・」
「そっか。お前も好きなのか」
お前もってどういう事?
もしかして、柴田くんもわたしの事を好きって事?
えっ? えっ?
そうなの??
「あいつ、お前の事好きだよな。日頃の言動を見てたらわかる」
「部長、いつ観察してるんですか?」
「うん? 常日頃。お前達の席、向かい合っているだろ? だからお前を見たらいつもあいつの姿も目に入るんだ」
「でも、それだけで、彼がわたしの事を好きだとは限らないじゃないですか?」
「夕べの飲み会の後、あいつがお前を飲みに誘ってただろう?」
「覚えています。だけど、部長がわたしを拉致しました」
「拉致って、ひどいな。もう一軒であいつがお前を帰すと思ってたのか?」
「えっ?」
「黙ってたらあいつにお持ち帰りされそうだったから、俺が送ったんだよ」
「お持ち帰りって・・・」
「あんだけ酔っ払ってたら、あいつに何されてもわかんないだろーが」
「何かされるって・・・」
えっ?
わたし、柴田くんにお持ち帰りされるところだったの?
ううん、そんな事ないよ。
彼は去年の忘年会の時みたいに、ちゃんとわたしを送り届けてくれたはず。
そうに決まってる。
お持ち帰り?
それをしたのは部長の方でしょ?
はっ!
もしかして部長・・・
「どうした?」
「部長、夕べわたしに何かしたんじゃ・・・」
「バカ。酔ってわけわかんなくなってる奴に何かするほど困っちゃいねーよ」
「だったら、だったら彼も同じです。彼はただわたしを家まで送ってくれるはずでした」
「・・・あいつに送られた方が良かったってわけか」
「はい。だって柴田くんはわたしの家も知ってるし、タクシーの中で爆睡したとしても、ちゃんと家に連れて来てくれたはずです」
「そうか。わかった。それじゃ俺が邪魔したってわけだな?」
立ち上がる部長。
そして、わたしの方に冷ややかな目を向けた。
「悪かったな。それじゃ俺、帰る」
部長は、リビングにいる母に、何事もなかったように笑顔で挨拶すると出て行った。
何よ。
柴田くんを悪く言うなんて気分が悪い。
彼は、そんな人じゃないわ。
うかつにもさっき、部長の言葉に感動した自分が悔しい。
柴田くんの事を悪く言うなんて、最低。
トントン
「はい」
「あんた、ちゃんと玄関まで送らないとダメじゃない。お世話になった人に対して失礼よ」
「お母さん、わたし部長の事嫌いなの」
「えっ?」
「だから、もうあの人の事は構わないで」
「・・・いい人だと思ったんだけどねぇ」
何がいい人よ。
仕事に関しては尊敬してたけど、今はその気持ちさえも消えつつある。
あんな人と同じ職場で仕事をしたくない。
思い切って、辞めちゃおうかな・・・
「はい」
「ご両親と一緒なの?」
「両親は離婚して、母と二人暮らしです」
「そっか。それじゃ、お母さん心配してるだろう?」
何故か部長も車から降りた。
「ありがとうございました」
「うん」
「それじゃ、失礼します」
「俺も行く」
「えっ?」
「お母さんに挨拶しなきゃ」
「えー!」
わたしより先に玄関の扉を開ける部長。
ちょっと待ってください。
部長、母に何というおつもりですか??
「ごめんください」
「は~い」
わっ、お母さんだ・・・
「はい? どちら様でしょうか?」
「わたくし、智子さんの上司の本村一樹と申します」
「まあ、智子の会社の方ですか。いつも智子がお世話になっております。あの、智子がどうかしましたか? 朝戻ったらうちにいなかったので、どこに行ったのかと心配しておりました」
「お母さん、朝戻ったって、夕べどこかに泊まったの?」
「あら、智子そこにいたの? あなたが忘年会で遅くなるって言ってたから、お母さんも友達と飲みに行ってたのよ。そしたら、ついつい飲み過ぎちゃって、目が覚めたら友達の家だった」
あはははと、豪快に笑う母。
わたし達、双子か!
どうして親子で同じ事しちゃうんだろ。
だけどここで、わたしもよ。
わたしも酔って部長の家に泊まっちゃったなんて言えない。
「お母さん、奇遇ですね。実は智子さんも送る途中のタクシーで寝てしまって、わたしの家に泊めました」
あ~言っちゃったよ。
部長、どうするのよ~~~
「あら、そうだったんですか? どうりで、ベッドに寝た形跡が残ってないと思ってたんですよ」
おいおいさらっと流すのか?
わたし、男の人の家に泊まったんだよ。
そこは、もっと動揺するとか、怒るとかするもんでしょ。
「勝手な事をしてすみません」
「いえいえ、謝るのはこちらの方です。智子がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「迷惑だなんてとんでもない。こちらこそ、智子さんを男の家に泊めたりしてしまって」
「いいんですよ。今まで彼氏も出来た事が無い子なので、少しは刺激を与えないとね」
「お母さん、何言ってるの!」
「いいじゃない。こんな素敵な上司の方と親しくなれたんだから。本村さん、良かったらこの子と付き合って頂けませんか?」
お、お母さん??
「えっ?」
ほら、部長も引いちゃったじゃない。
初対面の人に何て事言い出すのよ。
「あっ、ごめんなさい。本村さんのような素敵な方には、もう良い方がおられますわよね?」
「いえ、おりません。実は今朝、智子さんに告白したんです」
「えっ? そうなんですか? ちょっと、智子、良かったじゃない」
「待ってよお母さん。この人は同じ部署の部長なの。一番えらい人。そんな人とわたしが付き合えるわけがないでしょ!」
「どうしてだ?」
部長が真面目な顔でわたしを見てる。
ちょっと、怖いんですけど・・・
「どうしてって、もうバレたから言いますけど、母が言うように男の人と付き合った事もありませんし、どう接したらいいのかもわからないんです」
「だったら、俺と付き合って知っていけばいい」
「部長は、無理です」
「どうして?」
「どうしてって、どうしてもです」
「それ、ちゃんとした理由になってない」
「とにかく、わたしは部長とは付き合えません」
言っちゃった。
わたしと部長が釣り合うわけないじゃない。
もし付き合ったとしても、きっとすぐにがっかりさせてしまう。
仕事には慣れてきて少しは自信もついたけど、家事もろくに出来ず、凹んだ部長を慰めてあげる事も出来なかった。
こんなわたしに、部長の彼女がつとまるわけがない。
「塚本、お前始まる前から諦めてどうする」
「えっ?」
「楽しい事ばかりの恋なんて無いんだよ。辛かったり、傷つく事もあるかもしれない。それをひっくるめて、恋を楽しんでいくんだよ」
何?
この胸の痛み。
パチパチパチ
ちょっとお母さん、その拍手は何なのよ?
「本村さん、感動しました! わたしが付き合いたいくらいだわ」
「ちょっと気取った事言ってしまいましたけど、本当はわたしも大した男じゃないんです」
「そんな事ありませんよ。いや、本当に素敵だわ。智子にはもったいない。ねえ、どうして智子を好きになってくれたんですか?」
あっ、それ、わたしも聞きたかったかも。
何の取り得も無いこのわたしのどこが好きなの?
「智子さんは、真面目な人です。真面目過ぎて大丈夫かな、苦しくないかなと心配になる事もあります。不器用だけど、何事にも一生懸命取り組む姿に、パワーをもらっています。そんな彼女がほっとけないというか、守ってあげたいという気持ちが強くなって、気が付いたら好きになっていました」
部長・・・
そんな事思っていたんですか?
わたしの事なんか、目に入っていないと思っていました。
怒られる事も無く、わたしには無関心なんだと。
「ここがお前の部屋か」
どういうわけか、わたしは部長を部屋に通す羽目になった。
これもお母さんの策略だ。
わたしと違って、社交的、かつテキパキ星人の母は、部長を逃すまいとわたしもろとも部屋に押し込んだ。
あーあ、こんな事ならもっと片付けておくべきだった。
夕べから失態続き。
でも、自分をさらけ出しちゃったら、逆に部長と話しやすくなったかも。
「汚い部屋ですみません」
「ほんと、汚ねーな」
そんなにズバッと言わなくても・・・
「だけど、置いてある物は女の子らしくてかわいいよな」
えっ?
部長は、棚に置いてあったクマのぬいぐるみの頭を撫でた。
「触らない方がいいですよ。ほこりかぶってるかも」
「そうなのか?」
慌てて手を引っ込める部長。
ふふっ。
やっぱりずぼらなわたしとは合わないね。
「それにしても、塚本のお母さんって若いよな」
「若いっていっても三十八歳ですよ」
「三十八? いや、見えないな」
「そういう部長は何歳なんですか?」
「俺? 三十二だけど」
三十二?
へぇ~意外と若いんだ。
もっと上かと思ってた。
「おい、その表情は、もっと上かと思っていたな?」
「はい」
「ショック。だけど、確かに年より老けて見られるんだ」
「老けてるとは思ってません。落ち着いているし、身なりもいつもきちんとされてるし」
「ところでさ」
「えっ?」
急に真剣な眼差しになる部長。
どうしちゃったの?
「お前、柴田の事どう思ってる?」
「はぁ? 柴田春人くんですか?」
どうして今ここで、彼の名前が出るんだろう。
彼とは同期で、年は彼の方が二つ上だけど、緊張せずに話せる唯一の男性。
彼のリードが上手いのか、のんびり屋のわたしにペースを合わせてくれるのが上手いのか、とにかくストレス無しで話せる存在だ。
顔もそこそこカッコよく、真面目な顔から笑顔になる時のギャップにキュンとくる。
彼女がいるのかいないのか、その辺はさがかではないけれど、結構いいなと思っている。
「あいつの事、好きなのか?」
「えっ? いや、その・・・」
「そっか。お前も好きなのか」
お前もってどういう事?
もしかして、柴田くんもわたしの事を好きって事?
えっ? えっ?
そうなの??
「あいつ、お前の事好きだよな。日頃の言動を見てたらわかる」
「部長、いつ観察してるんですか?」
「うん? 常日頃。お前達の席、向かい合っているだろ? だからお前を見たらいつもあいつの姿も目に入るんだ」
「でも、それだけで、彼がわたしの事を好きだとは限らないじゃないですか?」
「夕べの飲み会の後、あいつがお前を飲みに誘ってただろう?」
「覚えています。だけど、部長がわたしを拉致しました」
「拉致って、ひどいな。もう一軒であいつがお前を帰すと思ってたのか?」
「えっ?」
「黙ってたらあいつにお持ち帰りされそうだったから、俺が送ったんだよ」
「お持ち帰りって・・・」
「あんだけ酔っ払ってたら、あいつに何されてもわかんないだろーが」
「何かされるって・・・」
えっ?
わたし、柴田くんにお持ち帰りされるところだったの?
ううん、そんな事ないよ。
彼は去年の忘年会の時みたいに、ちゃんとわたしを送り届けてくれたはず。
そうに決まってる。
お持ち帰り?
それをしたのは部長の方でしょ?
はっ!
もしかして部長・・・
「どうした?」
「部長、夕べわたしに何かしたんじゃ・・・」
「バカ。酔ってわけわかんなくなってる奴に何かするほど困っちゃいねーよ」
「だったら、だったら彼も同じです。彼はただわたしを家まで送ってくれるはずでした」
「・・・あいつに送られた方が良かったってわけか」
「はい。だって柴田くんはわたしの家も知ってるし、タクシーの中で爆睡したとしても、ちゃんと家に連れて来てくれたはずです」
「そうか。わかった。それじゃ俺が邪魔したってわけだな?」
立ち上がる部長。
そして、わたしの方に冷ややかな目を向けた。
「悪かったな。それじゃ俺、帰る」
部長は、リビングにいる母に、何事もなかったように笑顔で挨拶すると出て行った。
何よ。
柴田くんを悪く言うなんて気分が悪い。
彼は、そんな人じゃないわ。
うかつにもさっき、部長の言葉に感動した自分が悔しい。
柴田くんの事を悪く言うなんて、最低。
トントン
「はい」
「あんた、ちゃんと玄関まで送らないとダメじゃない。お世話になった人に対して失礼よ」
「お母さん、わたし部長の事嫌いなの」
「えっ?」
「だから、もうあの人の事は構わないで」
「・・・いい人だと思ったんだけどねぇ」
何がいい人よ。
仕事に関しては尊敬してたけど、今はその気持ちさえも消えつつある。
あんな人と同じ職場で仕事をしたくない。
思い切って、辞めちゃおうかな・・・