リーインカーネイション
ロンシェール
季節は秋。
月でいえば『秋の二月』。
日中は暖かく過ごしやすいが、夜はぐっと気温が下がるこの季節。
葉が茶や紅、黄と色を変えてひらひらと舞い落ちる情景は、ゆっくりと流れるのどかな時間を感じさせる。
ロンシェール公爵の屋敷の一室には、革張りのソファーに一組の男女が座っていた。
この屋敷の当主であるアルフ・ロンシェール公爵とその妻ハンナ・ロンシェールである。
そのソファーの端にはそれぞれ一人ずつ専属の使用人が立ち、いつ何が起ころうとも大丈夫なように控えている。
空調が効き、適度な暖かさを保つこの広い部屋には僅かこの四人しか居なかった。
ソファーに座っている妙にお腹の膨らんだ女性は体が弱く、つい先ほどまでこの部屋にあるベッドで寝ていたのだが、仕事がひと段落して部屋を訪ねてきた夫を迎えて今はこうして一緒にソファーに腰をかけていた。
ロンシェール公爵家の立つロンシェール領は、世界最大面積を誇る世界中心国である帝都パニーラ・マトンにある広大な領地である。
帝都パニーラ・マトンの中心都市であるヒルデガルドからは遠く離れているが、美しい自然が広がり、肥沃な大地から取れる産物が帝都パニーラ・マトン内どころか王族の暮らす王宮や他国でも評価が高いことは領民の誇りだ。
加え、ここは四季折々の情景が美しいことで有名な領地である。
それは隆起する山々だけでなく、領地内全体に言えた。
春は花が咲き誇り、日差しが強い夏は湖が陽光を反射させ、秋はこの地の特産物であるブドウを初めとする美味しいものが取れる他に紅葉がみられ、冬の雪原は言い表せないほどの美しさである。
帝都に暮らす領地をもたない貴族たちがこぞって別荘を建てている地だ。
そんなロンシェール領でも、今は数々の村が廃墟と化し、大地には大きなクレーターがいくつもできていた。
人々が笑って過ごしていた家が無残に壊されて廃屋と呼べるような家が何十、何百軒とある。
これらは街や村の周りにいるモンスターの所為ではない。
世界各地に跋扈する中級、下級モンスターたちが力を強め、どこからか現れた上級モンスターに率いられて街や人々を襲う『強襲』。
平和な10年の後に5年間に及んで訪れ、その後は何事もなかったかのように平和な10年が流れる。
このようなサイクルのため、俗に『5年の悪夢』とも呼ばれている。
そして『強襲』がつい先日終わった。
その爪痕が残る生活の復興に力を注いでいる最中だ。
平和で穏やかな時が流れている。
つい先日まで殺伐としていたことを思い出すと、こうして大切な人たちと過ごしているだけで幸せな気持ちになることができた。
確かに綺麗な物もお金も不必要なものではない。
あって困らないどころか、あるほうが望まれているモノだ。
しかし今は大切な人が傍にいてくれたら、ただそれで良いと本心から思えた。
―――それに、女性の白く頼りなさそうな細い手が、ゆるりとお腹をなでる。
そこにあるもう一つの命は微かに、そして静かに、けれど確かに脈動していた。
月でいえば『秋の二月』。
日中は暖かく過ごしやすいが、夜はぐっと気温が下がるこの季節。
葉が茶や紅、黄と色を変えてひらひらと舞い落ちる情景は、ゆっくりと流れるのどかな時間を感じさせる。
ロンシェール公爵の屋敷の一室には、革張りのソファーに一組の男女が座っていた。
この屋敷の当主であるアルフ・ロンシェール公爵とその妻ハンナ・ロンシェールである。
そのソファーの端にはそれぞれ一人ずつ専属の使用人が立ち、いつ何が起ころうとも大丈夫なように控えている。
空調が効き、適度な暖かさを保つこの広い部屋には僅かこの四人しか居なかった。
ソファーに座っている妙にお腹の膨らんだ女性は体が弱く、つい先ほどまでこの部屋にあるベッドで寝ていたのだが、仕事がひと段落して部屋を訪ねてきた夫を迎えて今はこうして一緒にソファーに腰をかけていた。
ロンシェール公爵家の立つロンシェール領は、世界最大面積を誇る世界中心国である帝都パニーラ・マトンにある広大な領地である。
帝都パニーラ・マトンの中心都市であるヒルデガルドからは遠く離れているが、美しい自然が広がり、肥沃な大地から取れる産物が帝都パニーラ・マトン内どころか王族の暮らす王宮や他国でも評価が高いことは領民の誇りだ。
加え、ここは四季折々の情景が美しいことで有名な領地である。
それは隆起する山々だけでなく、領地内全体に言えた。
春は花が咲き誇り、日差しが強い夏は湖が陽光を反射させ、秋はこの地の特産物であるブドウを初めとする美味しいものが取れる他に紅葉がみられ、冬の雪原は言い表せないほどの美しさである。
帝都に暮らす領地をもたない貴族たちがこぞって別荘を建てている地だ。
そんなロンシェール領でも、今は数々の村が廃墟と化し、大地には大きなクレーターがいくつもできていた。
人々が笑って過ごしていた家が無残に壊されて廃屋と呼べるような家が何十、何百軒とある。
これらは街や村の周りにいるモンスターの所為ではない。
世界各地に跋扈する中級、下級モンスターたちが力を強め、どこからか現れた上級モンスターに率いられて街や人々を襲う『強襲』。
平和な10年の後に5年間に及んで訪れ、その後は何事もなかったかのように平和な10年が流れる。
このようなサイクルのため、俗に『5年の悪夢』とも呼ばれている。
そして『強襲』がつい先日終わった。
その爪痕が残る生活の復興に力を注いでいる最中だ。
平和で穏やかな時が流れている。
つい先日まで殺伐としていたことを思い出すと、こうして大切な人たちと過ごしているだけで幸せな気持ちになることができた。
確かに綺麗な物もお金も不必要なものではない。
あって困らないどころか、あるほうが望まれているモノだ。
しかし今は大切な人が傍にいてくれたら、ただそれで良いと本心から思えた。
―――それに、女性の白く頼りなさそうな細い手が、ゆるりとお腹をなでる。
そこにあるもう一つの命は微かに、そして静かに、けれど確かに脈動していた。