二百文字小説【小さな玉手箱】
小さな玉手箱1(選集版)

《1.不味い酒 》

 行きつけのバーにきた俺は、言い争いを横にウイスキーを飲んでいた。

 別れ話だろうか。女が腫れた頬を押さえて泣いていた。

 不意に男の拳が「黙れ」という声とともに上がる。

 それを見た俺は思わず立ち上がり、男を殴り倒した。

 人を殴ったのは初めてだ。俺は金を置いて逃げるように酒場から出た。

 なぜ、男を許せなかったのか。あまりにも女が似ていた。

 病死した妻に。

 拳に響く微かな痛み。

 後悔した。あのバーには二度と行けないなと。
< 1 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop