二百文字小説【小さな玉手箱】
小さな玉手箱1(選集版)
《1.不味い酒 》
行きつけのバーにきた俺は、言い争いを横にウイスキーを飲んでいた。
別れ話だろうか。女が腫れた頬を押さえて泣いていた。
不意に男の拳が「黙れ」という声とともに上がる。
それを見た俺は思わず立ち上がり、男を殴り倒した。
人を殴ったのは初めてだ。俺は金を置いて逃げるように酒場から出た。
なぜ、男を許せなかったのか。あまりにも女が似ていた。
病死した妻に。
拳に響く微かな痛み。
後悔した。あのバーには二度と行けないなと。