二百文字小説【小さな玉手箱】
《2.愛されて 》

「どうして私にはパパがいないの?」

 突然、幼稚園児の娘が私に言った。

 答えに困って嘘をついた。パパは知らない女の人と出ていったんだよとは言えなかった。
 
 本当のことを話せないまま、娘は小学生になった。

 宿題と言って持って帰ってきた漢字の書き取りノート。

「私、お父さんに愛されていたんだね」

 ページには覚えたての娘の名前が書いてあった。

 私と夫の名前を一文字ずつ取った名前が。

 理由は言えないまま、娘を強く抱きしめた。
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