二百文字小説【小さな玉手箱】
《7.贅沢 》

 凍えるような季節に帰宅すると、食卓に必ずある鍋は恒例だ。

 遅い時間でも待ってくれている、妻の優しさがありがたい。

 今日の鍋はすごく贅沢だな。野菜だけではなく鱈や白子まであるのか。

 とにかくダシがうまい。まるで高級料亭の味だ。

「お仕事お疲れさま」と言ってくれる妻の言葉に涙が出そうになる。

 一人息子も素直で私の誇りだ。

「お父さんお帰り。蟹とカキの鍋うまかったよ」

 慌てて席を立った妻が、何故か息子の口を押さえた。
< 7 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop