契約結婚の終わらせかた
プロローグ~結婚しろ、ただし愛はなしだ
黄色い液体を、おたまですくってはガラス容器に注いでく。
甘い甘いそれは、バニラの香りでいつも小さな幸せを運んでくれる。
「ご、ろく……10。よし、こんなものかな?」
粗熱を冷ましたガラス容器を、冷やすためにトレーごと冷蔵庫に入れる。
(みんな喜んでくれるかな?)
きっと期待しているだろう子ども達の顔を思い浮かべて、自然と頬が緩むのを感じる。
その時はまさか、このお菓子ひとつで私の人生が変わってしまうなんて。夢にも思っていなかった。
☆
4月にもなると、だいぶ夕暮れが遅くなる。午後5時はまだ昼間のように明るい。それでもちょっと太陽は傾いていて、東の空から雲が金色や紫色に染まる。
「うめえ!」
夕暮れ時の空に、子どもの声が響いた。
「ほら、ね! 碧(あお)お姉ちゃんのプリンおいしいでしょ」
得意そうな顔でプリンを口にする男の子の賢(けん)くんを眺める女の子は、心愛(ここあ)ちゃん。ともに近所の小学生だ。
「マジで碧姉ちゃんのプリンうめえな」
パクパクとプリンを食べていた賢くんだけど、途中でスプーンを止めてそっとフタを閉めた。
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