契約結婚の終わらせかた
10年……いいえ。もっとそれ以上の長い年月を、彼女は想い続けてきた。
出会ってやっと3ヶ月かそこらの私には、とても想像がつかない。報われずともせめて仕事で認められようと……伊織さんの厳しさから言えば、才能以上に血の滲むような努力が必要だったはず。
それを彼女は強い意思で成し遂げたんだ。
その上、アジア系のエキゾチックな美しさを兼ね備えた美人。まさに才色兼備を体現したような人なだけに、輝いて見えたのも当然だ。
どうして、伊織さんは彼女を選ばなかったのだろう? これだけ健気で一途なら、他に浮気したりする心配はないだろうに。
「どうして……? あなたみたいに素敵な人が……どうして私が伊織さんの妻に」
「さらりと傷つくことを言うわね」
「す、すみません! だって……どう考えても私よりあなたの方が伊織さんに相応しいと思うんです」
とんでもない失言に慌てて謝罪すると、あずささんは苦笑しながらも責めることはなかった。
「別にいいわ、真実なんだから。あなたが選ばれて私は選ばれなかった――他者がどんな理屈を捏ね回そうが、それが伊織さんの選択なんだから仕方ないわ」