契約結婚の終わらせかた
妻として葛西さんとともに伊織さんの検査結果を聞いたところ、どうやら胃潰瘍ということだった。
「出血部分はひとまず内視鏡治療で止血できましたが、明らかな貧血と脱水症状があります。何日かの入院をお勧めします」
出来たら仕事もセーブした方がいいですが、とお医者様がおっしゃるから。私はチラッと葛西さんを見て思い切って訊いてみた。
「あの……伊織さんをしばらくお休みさせるのは難しいでしょうか? 体が心配です」
「どうかな? 僕が休ませるのは別に構わないんだけど。あの仕事の鬼が素直に休むと思う?」
葛西さんがそう話した途端、バタンとドアが開く。そこに立っていたのは、ベッドで寝ていたはずの伊織さんだった。
「葛西、何をぐずぐずしてる? 仕事に戻るぞ」
伊織さんは首もとのネクタイを結びながら、私の方などまるで見てない。手元にあるのはビジネスバッグで、今すぐにも商談しに行けそうな勢いだ。
だけど――
私はツカツカと伊織さんのそばに歩み寄ると、彼のビジネスバッグを全力で奪い両手で抱き抱えた。
「何をする!」
「仕事に行ってはダメです! まだ入院が必要な体なんですよ? 無理はしないでください」
「体ならもう平気だ。それより邪魔をするな! さっさとそれを返せ」
地を這うような怒声を浴びせられたけど、私は絶対渡すもんかとその場でしゃがみこんだ。
「嫌です! 伊織さんが馬鹿だから渡したくありません!!」