契約結婚の終わらせかた
「空くんは泳がないの?」
「泳ぐよ! せっかくだし……」
カラフルな花柄の水着を履いた空くんは、さすがに運動部だけあってかなりいい体をしてる。
私がいるビーチパラソルの下に腰掛けた彼は、何だかもじもじと落ち着かない。
「どうしたの? もしかすると喉が渇いたとか」
保冷バッグから水筒を出そうとすれば、彼はブルブルと首を横に振って私をキッと見据えてきた。
「あ、碧姉ちゃん!」
「なに?」
「あ、あのさ……よ、よかったら。い、い……一緒に……泳」
空くんが何かを言いかけた瞬間、彼の顔を誰かの手ががっしりと掴んだ。
「空くん、だっけ? お姉さんに日焼け止め塗ってくれないかしらあ?」
いつの間にかビキニの紐を緩めた美帆さんが、ウフフと小悪魔めいた笑みで空くんを魅惑する。
ボンッ、と湯気が立ちそうなほど真っ赤になった空くんは、パクパクと口を開きながら何も言えないようだった。
「おほほ、ごめんあそばせ。空くんは借りていきますわ~どうぞお二人でごゆっくり」
日焼け止めを塗るはずなのに、なぜか美帆さんは空くんを引っ張って海の家へ入ってく。そのお店のオープンカフェでは、おばあちゃんが知り合いとお茶を飲みながらお喋りを楽しんでた。
ということは……
ビーチパラソルの下で寝そべる人をチラッと眺める。相変わらず無愛想な彼は、ジッと動かないけど。
今、私は伊織さんと2人きり!?
急に、心臓が早鐘のように鳴り始めた。