契約結婚の終わらせかた
「まぁ、まあ。いい年した若いもんがいつまでごろごろしてるんだい!」
いつの間にか戻ってきたおばあちゃんは、ドカッとレジャーシートの上に座り込んで私たちを押し退けた。
「老い先短い年よりを炎天下に晒して熱中症で死なせる気かね。ああ、いやだよ。さっさと海へお行き」
シッシッ、とまるで猫の子でも追い払うようにされて、それ以上留まれるはずもない。おばあちゃんは知り合いとお茶を片手にお喋りを始めたし。邪魔はできないな。
(でも……どこに行けばいいんだろ)
チラッと横に立つ伊織さんを見れば、彼は無関心そうに立ってるだけ。はぁ、とため息を着いて仕方なく海に向かって歩きだしたんだけど。
「おまえは、泳げるか?」
ボソッ、と聞こえてきたのは――伊織さんの声で。にわかには信じられなくて振り返ると、彼は私を見てた。
「おまえは泳げるか、と訊いたんだ」
苛立った伊織さんの乱暴な口調に、ハッとなってすぐに首を左右に振って答えた。
「ぜ、全然。私、運動全般がダメなんです。よく先生には運動神経が切れてるって言われました」
「そうか」
伊織さんはしばらく顎に手を当てた後、待っていろとレンタル小屋まで走っていく。
そして……
彼が借りてきたのは、二人乗りのビニールボートだった。