契約結婚の終わらせかた
「先に乗れ」
「は、はい」
促されて恐々ビニールボートに乗ろうとしたけど、タイミングが下手すぎてつるりと体が滑った。
「きゃ!」
海に落ちる! と思ったのに。いつの間にか後ろにいた伊織さんががっしりと抱き留めてくれて、何とか落ちずに済んだ。
「……あ、ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしてすいません」
「まったくだ」
無愛想に返されたけど、彼はそのまま私を抱き上げてビニールボートの上に乗せてくれる。
男性だから、当然と言えば当然かもしれないけど。
予想以上の力強さと逞しさに、顔が火照りドキドキと鼓動が速くなる。
思いがけず密着した肌が熱い……。
伊織さんはなんなくビニールボートに乗ると、慣れた様子でオールを動かし漕ぎ出した。
ゆっくり、ゆっくりと周りにの景色が動いて浜が遠ざかる。キラキラ輝く水面はまばゆくて。それでも透明度が高い海だから、水色の下に様々な生き物が生息してる様子が見れた。
「わ……カニがいる。わわっ! 海藻? あれ海藻かな」
何もかも初めての体験なだけあり新鮮で。子どもみたいにはしゃいでしまいました。