契約結婚の終わらせかた





伊織さんが初めて自分のことを話してくれた。


それはもしかすると遮るものがない大海原の解放感から来る、本心の発露で独り言みたいなものかもしれない。


……でも、でも。


伊織さんが、聞かせてくれた。私に。私だけに……。


少しは、心を開いてくれてると思っていいの?


あなたの心に、ほんのちょっぴりとでも私の居場所があれば……とても嬉しい。


独白に近い言葉だったのに、私にはどんな耳障りのいい言葉より貴重で、重みがある。決して聞けないと思ってたから尚更に。


滲む涙をゴシゴシと手のひらで拭うと、私はにぱっとなるべく明るく笑う。


「そうですよ! 今まで無縁だったなら、どんどんチャレンジすればいいんです。私が、そうさせますから。
私が一緒にいます。一緒に楽しみましょう」


勢いのあまりにぐぐっと前屈みになり、伊織さんが呆れた顔になってから気づいた。


彼の視線の先……


ブカブカで隙間が空いてるせいで、見えていたのは……晒してしまってごめんなさい、とその場で土下座したくなる貧しい胸でした。


「ひゃああああ!」


反射的に両手で押さえると、そのまま後ずさって後ろに向く。

(み……見られたけど。伊織さんはむしろ被害者)


泣きたくなったし、顔が絶対真っ赤になってる。だけど……謝らないと。


「ご、ごめんなさい! こんなものを見せてしまって……」


土下座したかったけど、彼を見るほどの度胸はなくて。うつむいたまま謝った。


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