契約結婚の終わらせかた
「はい、伊織さんの分です」
軽く息を吐きながら差し出せば、伊織さんはジッと見た後に手に取る。
「ああ」
ぶっきらぼうな返事しかないけど、受け取ってもらえただけでも上出来だ。今までだったら突き返されてただろうし。
「次はどこを回ります?」
藤祭りではあまり余裕がなく楽しめなかったけど、今日は時間があるから伊織さんの希望を優先しようと思う。お祭りもよく知らない彼に、楽しい思い出を作って欲しいから。
伊織さんは黙ったままだけど、ちらっと見たのが金魚すくいの露店。そういえば、藤祭りの時も不思議そうだったっけ。
「金魚すくいですね。行きましょ! 百聞は一見にしかず。体験してみればいいんですよ」
私は伊織さんの背中を両手で押して、無理やり彼を金魚すくいへ押し出す。
「おい!」
伊織さんの不機嫌そうな抗議の声を無視して、小銭入れからお金を渡すと金魚すくいのポイ(丸い枠に薄い紙を張った金魚を掬う道具)をおじちゃんから受け取った。
「はい、これで掬ったらこのお椀に入れてください」
伊織さんの手に強引にポイを握らせると、お椀を左手に持たせておいた。
青い水槽にはたくさんの金魚が元気そうに泳いでる。隣の人はヒョイヒョイと簡単にとってるからか、初心者の伊織さんは簡単そうに思ったらしい。ポイをまっすぐに水面に潜らせた。
そして……。