契約結婚の終わらせかた
「……なんでこんなにあっさり破れるんだ? 欠陥品じゃないのか?」
3枚目のポイをダメにした伊織さんが不機嫌そうに言うのも無理はないけどね。
「兄ちゃん、自分が下手だからって変なケチをつけるなよ。それはそういったものなんだ」
「そうですよ、伊織さん。金魚すくいってそのやわいポイで何ぴき掬えるかのゲームなんです。みんな同じ条件なんですよ」
店番のおじちゃんはそう言いながら、負け惜しみと伊織さんを笑う。悪いけど、私もクスクス笑った。
だって……伊織さんが心底悔しげに見えたから。
「碧姉ちゃん! オレは10匹取れたぜ!」
一枚目のポイをムダに使わずにいた空くんは、得意気にお椀を見せてくる。
「ほら、空くんだって取れるんですよ。大丈夫、コツさえ掴めば器用な伊織さんなら何十匹もいけますよ」
「おっさん、オレがコーチしてやろうか?」
空くんがニヤニヤしながら眺めてるのが気にくわないのか、伊織さんはポケットから財布を取り出す。
そして、店番のおっちゃんに万札を数枚バン! と叩きつけた。
「それ、全部もらおうか」
どうやら負けず嫌いが変な風に火を付けたらしいけど、私は慌ててそれを引っ込ませておじちゃんに100円を三枚出した。
「すみません、一枚でいいです。ダメですよ、伊織さん。お祭りはみんなで楽しむものですから、独り占めはいけません!」
「そうなのか?」
「そうです! 楽しみはみんなでちょっとずつ分けあった方がもっと楽しいんですよ」
そう言った私は、自分でポイを構える。
黒い出目金に狙いを定めて、後ろからそっとポイを潜らせた。