契約結婚の終わらせかた
クライマックスの花火は予定通りに始まった。
高台に集まったみんなはそれぞれ思い思いに楽しんだのか、いろんなものを手に歓声を上げてる。
私も……
ギュッと黒いぬいぐるみを両手で抱きしめて、腰掛けたベンチの上でそれに顔を埋める。
「どうしよう……」
私の小さな呟きは、きっと花火の轟音に紛れて聞こえない。それでも、誰かに聞かれるかと怖くて顔があげられなかった。
ドン、ドン。続けて花火が上がった音に紛れて、誰かが近づく足音がする。
ドカッ、とすぐ隣で腰かけたのは伊織さんだと、嗅ぎなれたフレグランスからわかった。
「ほら」
手に冷たい感触がしてなんだろうと顔を上げると、赤いかき氷が差し出されてる。素直に受け取ると、伊織さんはりんごあめをかじり始めた。
「ありがとう……ございます」
「別に、今日の報酬だ」
サクサクした氷をスプーンですくって口に入れる。ホロリと溶けるきめ細かな氷の冷たさと、シロップの甘さが口に広がって涙が出そうなくらいおいしかった。
「……おいしい」
「ああ」
シャクシャクとりんごあめを食べ終えた伊織さんは、それをもとのビニール袋にしまう。
そして、ぽつりと呟いた。