契約結婚の終わらせかた
「……今日は……楽しかった」
「はい」
「祭りがこのようなものだと、生まれて初めて知れた。……貴重な経験をさせてくれたあんたには感謝してる」
「別に……私は……伊織さんの妻ですから」
私は取り立てて大したことなんてしてないし、できてない。
みんながいなきゃこうしてお祭りも楽しませられなかった。
「私はなにも……みんなの協力があったからです」
「それでもだ。あんたがみんなをまとめて盛り上げた」
ドン、と弾ける花火とともに伊織さんからそんな嬉しい言葉を貰えるなんて。今までだったら無条件に喜んでただろう。
だけど……今は、つらい。
「……よかったと、思う」
伊織さんが言葉を紡ぐたびに。
「あんたを妻にして」
どうして、悲しくなるんだろう?
「妻があんたで、よかった」
それが本心からだとしたら、よけいに。
「あんたさえよかったら、これからも頼むな」
それが、期間限定の関係なのだとはっきり区切られてるから。
わかってた。ちゃんと理解してた。割り切っていたはずなのに。
変わってしまったのは、私の心だけだ。
「はい、わかりました。残り期間精一杯勤めさせてもらいますね」
泣きそうな顔なんて見せたくなくて、精一杯の笑顔を彼に向ける。
知られちゃ、ダメだ。
――あなたが好きになったかもしれない、だなんて。
絶対に、知られてはいけなかった。