契約結婚の終わらせかた
「あ……これ素敵」
着付け教室の帰り道。和装専門店を覗いていたら、お手軽な価格の「洗える着物」を見つけた。
ポリエステル生地ではあるけれど、色は選べるみたいだし。一着買えば家でも着付けの練習が出来る。
(仕立て上がりで9800円か……)
お小遣い数日分の金額だし、悩むなあ。
(やっぱり物いりだし、おはる屋が終わってから夜のバイトを再開しようかな)
ダイエットでも野菜をよく食べるから、割と食費がかさんでる。最近は食事の支度は任されてるから、おばあちゃんのお小遣いから材料費をやりくりしてるけど。厳しい財政状況なんだよね。
伊織さんはたぶん、知らない。私が月に50万支払われてる生活費に一切手をつけてないことを。
マンションに無料で住まわせてもらってるだけでも有難いのだし、鈴木さんに家事を手伝ってもらい楽をしてるんだ。だから、厚かましくお金まで受け取る訳にはいかない。
これは、私のつまらないちっぽけな矜持。お金を受け取ってしまったら、契約というドライな関係を自分が認めてしまうような気がして。
愚かな私は頭ではわかっていても、気持ちが認めたくないと叫んでる。
……伊織さんに一方通行の想いを抱いてからは、特に。
(伊織さんに内緒で短時間のバイトを始めようかな。三時間くらいならそんなに遅くならないし)
専門店のそばにラックがあって、そこにはいくつかのフリーペーパーがある。求人のペーパーを幾つか手に取ると、お店を出ようとした瞬間に声をかけられた。