契約結婚の終わらせかた
『あら、珍しい。私に用事なんて』
翌日、私が机にしまっていた名刺を引っ張り出して電話をかけたのが、中村 あずささん。
伊織さんが胃潰瘍で倒れた時以来だから、2ヶ月経ってからの電話になる。
だけど、今回の件に関しては葛西さんが非協力的。彼は伊織さんを傷つけた、と私を激しく非難してきたんだし。当然と言えば当然。
葛西さんの助力があてにならない以上、私が頼れるのは一度だけお会いしたこの人……あずささんだけ。
「忙しい中で急にすみません。どうしても知りたいことがありまして」
私は単刀直入に用件を切り出した。
「伊織さんがどこかのパーティーか何かに出るスケジュールってありますか?」
『え?』
「実は伊織さんを怒らせてしまって。謝ろうにも避けられたままで、取りつく島もないんです。ですから」
『どさくさ紛れに近づいて謝りたいわけね』
あずささんにズバリと目的を当てられ、小さな声で「はい」と答えた。
「ご迷惑をお掛けしてすみません。もしも難しいなら他の方法を考えますから」
『ちょっと待って! たしか……1週間後にどこかのパーティーが入ってたわね』
パラパラと手帳を捲る音が聞こえてから、あずささんはそう教えてくれた。