契約結婚の終わらせかた
『でも、ちょっと待ってね』
あずささんは電話越しでもわかるほど、うふふと楽しそうな笑い方をする。
『ね、碧。ちょっと変身してみない?』
「え?」
いきなり呼び捨て? と驚く前に、もっとびっくりすることをあずささんは口にした。
『だから! パーティーに潜入するなら、それなりの格好やメイクもしなきゃならないわよ?碧はちゃんと自分で失礼ないようにコーディネートできるの?』
「……それは……自信がないです」
『でしょ? 初めて碧を見た時に思ったの。なんて磨きがいのあるひとだって。
いい、この中村あずささんに任せなさい! あなたを素敵なシンデレラに変身させてあげるから』
伊織さんを見返してやりましょう! と燃えるあずささんに一抹の不安を覚えるけど。確かに、伊織さんに謝るために腹をくくる必要がある。
きっと、また。あの毎日を取り戻すんだ。そう固く決意をして、椅子から立ち上がると抱きしめてたぬいぐるみをベッドに置いた。
いつの間にか私が抱きしめるのは絵本じゃなく――伊織さんにプレゼントされたあの人相の悪い黒猫のぬいぐるみで。
これをプレゼントしてくれた時のことを思い出し、自然と笑いが込み上げてきた。
(また、あんな毎日に戻りたいもの。おばあちゃん……みんな。勇気をわけてね)