契約結婚の終わらせかた
「ご無沙汰してましたわ、碧さん」
あずささんのマンションを訪れると、待っていたのはあずささんだけでなく、葵和子さんもいらした。彼女は今日も和装で、薄い紅葉色の付け下げに銀色の帯を上品に合わせてる。
私は突然のことでぼうっと突っ立ってたけど、葵和子さんの挨拶で慌ててこちらも頭を下げた。
「あ、お久しぶりです」
「突然お話に割り込んでしまってごめんなさい。けれど、碧さんがお困りとあずささんからうかがって。僭越かと思いますが、わたくしにも協力させていただきたいのです」
葵和子さんはそう言いながら、持っていた布製のカバンを開く。
取り出したものは折り畳まれたたとう紙で、中から取り出されたものはたとう紙の上で広げられる。
葵和子さんが持ってきたものは、数枚の着物だった。
「これは全てわたくしが結婚前に着ていたものです。碧さんは着物に興味があるみたいですから、どうぞお好きなものを手に取ってみてくださいな」
葵和子さんがそう言うのも、きっと和装専門店で私を見ていたからだろうな。あの時確かに私は一着くらい着物が欲しいと考えてたけど。
そっと、広げられた着物に触れてみる。肌触りのいい独特な風合いが、これは上質な生地なんだと伝えてくる。
振袖、小紋、付け下げ、紬、単(ひとえ)、色無地。
どれも上品で仕立てがいいものばかりだ。
だけど、だからこそ。
「……すみません、私にはとてもいただけません」