契約結婚の終わらせかた
おはる屋の和室でたとう紙から取り出した着物を見たおばあちゃんは、これはと目を丸くした。
「あんた、この着物をどうしたんだい?」
「葵和子さんから借りたの……今度……パーティーに着ようと思って」
「……」
おばあちゃんはしばらくその着物を眺めると、やれやれとため息を着いて箪笥を開けるとごそごそと何かを取り出した。
おばあちゃんが取り出したのは金色の地に華やかな紅が散らされたデザインの袋帯。
「これを使いな。その帯だと地味過ぎてあんたが回りに埋もれちまう」
「おばあちゃん……私が地味すぎて壁と同化するって言いたいわけね」
「ふん。あんたには葵和子のような華やかさが足りないからね。多少足さないとバカ婿の目にも止まらないよ」
まったく、とおばあちゃんは特大のため息を着いた。
「あんたはこの帯をくれたわしのばあちゃんにそっくりだ。地味すぎて他の花の引き立て役になる……だけど。雑草なら雑草で、踏みつけられてもへこたれない根性を見せつけてやるんだよ!あのバカ婿を蹴飛ばすくらいの勢いでね」
相変わらず口が悪いけど、私を励ましてくれたことはわかる。おばあちゃんのおばあちゃん……戦前から、大切に受け継がれてきた帯。
篠崎家の様々な思い出が詰まった大切な帯。一時とはいえおばあちゃんが託してくれたなら、きっと私は篠崎家の女だと正式に認められたんだ。 たとえ血が繋がってなくても。
それが、何よりも嬉しかった。