契約結婚の終わらせかた
おばあちゃんは特別手当てでタクシー代までくれたから、遠慮なくタクシーで会場まで向かう。電車だと慣れない和装はキツイから。
一応、おばあちゃんとくるみさんに和装の立ち居振舞いは特訓してもらったけど。わずか1週間じゃ付け焼き刃ですよね。
どうかボロが出ませんように、と戦々恐々で着いた先は、とある一流ホテル。ホテルマンさんの出迎えが当たり前なセレブ感満載ですよ。
「そんなにびくびくしないの。堂々と胸を張らないと、着物で猫背はみっともないわよ」
大胆な切り込みが入った赤と黒のセクシーなドレスを着たあずささんは、私の隣でそうアドバイスしてくれる。
今日のパーティーは招待されたのがあずささんで、私は同伴者という立場です。
大きな企業の重役の誕生日パーティーらしく、かなり砕けたものだと教えてもらえた。
「それにしても面白いわねえ、仮面パーティーにしちゃうなんて」
受け付けで記帳をした後に渡された目の部分を覆う仮面。それに戸惑ってると、あずささんにはノリノリで仮面を装着する。
「ほら! こうやって着けちゃうと、誰が誰だかわかりにくいでしょ?」
あずささんが楽しそうに見せてきた通りに、確かにパッと見ではわからない。
(これなら……私も気後れせずに大丈夫かも)
招待客の中から伊織さんを見つけるのは難しいかもしれないけど、彼に見つかってもすぐに私とはわからないだろう。だから、それを利用して彼に近づくんだ。
これはいいチャンス、と和風の仮面を顔に付けた。