契約結婚の終わらせかた
完全に目を覚ました時間はチェックアウト寸前で、大慌てで支度をする羽目に。
「もう、なんで起こしてくれなかったんですか!」
「ヨダレを垂らしながら幸せそうに寝てたからな」
「え、うそ!」
慌てて口元を拭う私に、伊織さんはフフンと笑う。
「冗談だ」
「……っ、意地悪言わないでください!」
完全にいつもの伊織さんに戻って、安心できたけど心臓がうるさく鳴る。顔が赤いのは恥ずかしいからだ。絶対、そう。
だけど……
慌ててまとめた荷物の中に一通の手紙が紛れていたことを、その時の私は知らなかった。
そして。
違う色の和紙の手紙が、別の人の手に渡ったことを。
“桂 葵和子様へ――
和泉 伊織より”