契約結婚の終わらせかた
一年目·冬~別れの足音
12月~雪と涙
「なぁ、あんた伊織の妻なんだろ?」
「は?」
突然声をかけられたのは、おはる屋の買い出しに商店街へ足を伸ばした時。
ちょうどいた空くんに手伝ってもらい、重いものを買い回りしてる最中だった。
12月も中旬を過ぎるとすっかり秋らしさがなりを潜め、舞い落ちる葉もほとんど無くなる。
空気は乾燥して風は冷たくなり、澄んだ空気は空を高く青く見せる。
「碧姉ちゃん、次はこれじゃなかった?」
「あ、うんうん。そうだったね」
試験あけということで昼過ぎにおはる屋に来た空くんは、おばあちゃんに荷物持ちとしてお使いを命令された。
子ども達にとってもおばあちゃんは恐くて、昔も今も畏怖の対象になってる。
けど、おばあちゃんは口こそ悪いけど、情に厚くて面倒見がいいから、何だかんだ言って慕われてるんだよね。
「次はこれか。金物屋さんかな」
おばあちゃんに渡されたメモを片手に、最後の用事を済ませようと金物屋さんに足を向けた瞬間、立ち止まらないといけない事態になっていた。
私の真ん前にズイッと出てきたのは一人の男性。紫色のシャツに赤いラメ入りジャケットなんて派手な格好に、金色でツンツンに立った針金みたいな髪。耳にはじゃらじゃらと幾つものピアスをつけて。鼻にもピアスをしてた。
いかにも軽薄そうな男性に警戒をしてると、男の薄い唇がニヤリと笑った。
「あんた、和泉 伊織の妻なんだろ?」