契約結婚の終わらせかた
「ちょ……何をするんですか。離してください」
「あんたがバイトする理由は何だ?」
「そんなの、あなたに関係ないでしょう」
なぜか、男性も声を小さくしてささやくようなやり取りになってる。
バイトする理由? そんなの決まってる。だけど、おばあちゃんに本当の理由なんて、知られるわけにはいかないじゃない。
「関係ある、と言ったはずだ」
男性は片手で私の手首を掴んだまま、私の顎を指先で持ち上げる。更に顔が近づいてくるのが信じられなくて、ギュッと目をつぶる。
呼吸が、苦しい。どうして、こんな時に心臓がおかしくなるの? 信じられないほどの圧倒的な体格差と、熱を孕んだ体の存在。力の差以上に、抗うことが難しかった。
「話をしなければ、ここでキスしてやるが?」
唇に熱い吐息がかすめて、ビクッと肩が揺れた。シトラスのような薫りと、目の前の力強さに頭が酸素不足のようにぼんやりする。
(キス……なんて、嫌だ)
かろうじて、それだけを思考の端で捉えて。私はコクリと頷く。
「話します……だから、離してください」
「いい子だ」
あっさりと彼は離れると、私の手首を掴んだまま外へ歩き出す。
逃げないと言っても無駄で。彼と一緒にお店を出ると、近くの花壇に並んで腰を下ろした。