契約結婚の終わらせかた
「どうしたの? そんなにおいしくなかった?」
不安になって訊ねれば、賢くんは「違うよ!」と怒鳴ってから下を向いてぼそぼそと呟いた。
「こんだけうまいのを……真理(まり)にも食わせてやりてえだけだって……あいつ……今日熱を出して保育園休んだからな」
賢くんの頬がほんのりと赤いのは、照れ隠しかもしれない。かわいいなあ、と口元が緩んだ私は保冷バッグに入れたものを差し出した。
「真理ちゃんの分はちゃんとあるから、遠慮なく食べちゃって」
「マジで? さんきゅ!」
目を輝かせた賢くんは、プリンのフタをむしるとまたスプーンで掬い口に入れる。それを見ていた心愛ちゃんも、笑ってプリンを食べ始めた。
「賢もなかなか良いところがあるじゃない」
「うっせ!」
珍しく心愛ちゃんが褒めてきたからか、心なしか賢くんの頬がさっきより赤くそまってて。微笑ましい。
そうこうしていると、いつもの常連客――近所の子ども達が集まってきた。
今どきな二階建ての木造建築の古びた壁は黒っぽく、あちこち補修跡が目立つ。二階は私とおばあちゃんが住んでいて、一階は昔ながらの駄菓子屋さんを営んでる。
“おはる屋”――ここが、おばあちゃんが営む駄菓子屋さんの名前だった。