契約結婚の終わらせかた
一年目·春~契約の始まり
4月~新しい生活
ええっと……戸籍謄本と、転入届けと……それから。
「……」
今、自分の目の前にある書類が未だに信じられない。
「何をしてる? 必要な書類が揃ったならさっさと出しに行くぞ」
「あ、はい」
私をそう急かすお方は、これから1年私の夫になる(はずの)和泉 伊織(いずみ いおり)さんです。
ダークネイビーのダブルボタンのスーツをピシリと着こなしてらっしゃる彼は、今日も今日とて眉間に深いシワを寄せて不機嫌さ全開。“面倒くさい”オーラがばんばん出てますよ。
それもそのはず。だって、今は彼のお昼休憩を使って市役所へ婚姻届を提出しに来てるんですから。
なぜかと言えば、彼はこれから1ヶ月先はそんな時間がないからだって。ろくにお休み無しな上に、細切れで海外出張や地方への出張があるからと。
“面倒くさいことは先に済ませるに限る”
なんて言い切ってたからなあ。
…………。
(別に……愛を期待するなとは言われてるから、優しくして欲しいとは言わないけど……何だか寂しいって思う……のは私のわがままなんだろうな)
最初から、夫婦らしくだとか期待はしてない。でも、いくら契約としても、夫婦ってこんなふうに味気なくなるものなのかな? って思う。
私には親しくしてるご夫婦や家族がいないから、あくまでも想像に過ぎないけどね。