契約結婚の終わらせかた



伊織さんはタクシーを使えと言ってたけど、歩ける距離ならと散歩するつもりで徒歩で帰る。


市役所は国道に面しているだけあって、少し歩けば開けた街並みが見えてきた。


「わぁ……!」


近くには桜並木で有名な川岸とお城があって、中心街は様々なお店が建ち並ぶ。


おばあちゃんは今日はお休みにしてくれたし、時間ならあるから少しだけのつもりでお店を覗いた。


並木道をゆっくり歩いて見てるだけで楽しい。お金はないから買えないけど、ガラス工芸のお店が近くにあるなんて初めて知った。


(考えてみれば……こんなにゆっくりウィンドウショッピングするの初めて)


高校の時もおばあちゃんと駄菓子屋を切り盛りしながら、アルバイトに励んでいたし。家事とお店とバイトと勉強と……で時間がとられて部活も入るひまも無かったし、同級生に誘われても遊ぶ時間がなくて友達もできなかった。


もともと、ぽっちゃりで地味で貧乏な私に興味を持ってくれる人なんていなかったけど……。


だからこそ、どうして伊織さんが契約とはいえ私と結婚したかがわからない。


彼は、仕事のためだとか親を黙らせるためとは言ってたけど……。


私は、1週間にあった伊織さんとの会話を思い出した。


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