契約結婚の終わらせかた
「なんだ……やっぱりもう私なんていらないじゃない」
あずささんは宣言からわずか1ヶ月で伊織さんと同棲して深い仲になれるほど、魅力的だったんだ。
ほらね、やっぱり。私なんかと比べ物にならない。彼女は本物だから……伊織さんが選んで当たり前。
アパートの部屋で、じわりと滲むものをごしごしとぬぐう。
(これで決まったな……伊織さんが決意をしたなら離婚できる。おはる屋に帰れる)
もともと正蔵さんとは離婚が決まるまで、の一時的な住まいとしてお世話になったアパートだ。 伊織さんが離婚を決めたなら近々出ていく。
「荷物……まとめなきゃな」
もとから荷は多くない。旅行カバンを開いてあまり使わないものから詰めようとして、その中に見慣れないものに気付いた。
「あれ……これ、何だろう?」
若草色の柔らかい和紙の封筒。なんとなく見覚えがあるような。
何気なく開いた封筒には一枚の便箋が入ってた。間違い? でも宛名が無いしな。仕方なく内容を確認するため、手紙に目を落として。
一瞬、息を飲んだ。
だって……
手紙の書き出しには
“碧へ”とあったから。
伊織さんの字で。