契約結婚の終わらせかた
「なぁーんだ……それならよかった」
ホッと安心したように息を吐く美帆さんに、申し訳ない気持ちになる。おばあちゃんといい、最近私は嘘をついてばかりだ。そんな自分が嫌いになりそうになる。
「ま、これはあくまでもわたしの経験上から言えることだけど」
よっこらしょ、と椅子に座り直した美帆さんは、塩せんべいを手にしてパリンとかじる。それを砕く小気味いい音が店内に響いた。
「他人行儀を望む人間は、結局他人が怖いの。自分が傷つきたくないから、頑丈な予防線を張る。それには大抵、傷ついた過去があるからだわね」
パリン、と新しい塩せんべいをかじる美帆さんは、ジャスミンティーを飲み干してプハッと息を吐いた。
「けど、殻を破れば本当は人を求める飢餓感がある。だから、独りで住めばいいのに――一緒に暮らすってなるんでないの?」
まるで、私の現状を知ったような話し方に、ドキッと胸が鳴る。まさか、本当は私のことを知ってた? とドキドキしたけど。
「……って思うけど。わたしがそのヒロインの友達ならね、やめろって言うだろうね」
美帆さんは、ニコッと笑って塩せんべいを掲げる。
「だけど、もう一度関わったなら仕方ないよね。なら、できることはひとつ……相手を知ること、自分を知ってもらうこと。そして、ともに過ごす時間と会話を増やすこと。その努力をせずに逃げたなら、もうどうしようもないけどね?」
パリンッ、と美帆さんは笑顔で最後の塩せんべいを噛み砕いた。