契約結婚の終わらせかた



物音が聞こえたような気がして、ハッと目が覚めた。


(いけない、寝ちゃってた……)


時計を見ると、午前2時近く。玄関のドアが開いたのはセキュリティボックスで確認できたから、伊織さんが帰ってきたんだと知った。


「よ、用意しなきゃ……」


あたふたと冷蔵庫に走り、冷やしたものを取り出す。グラスに入ったものに生クリームを搾り、各フルーツを飾り付けた。


その最中、ダイニングの暖簾がわりにしてるスワロフスキークリスタルのオーナメントがじゃらりと鳴って、伊織さんがダイニングに姿を現した。


彼はネクタイを緩めながら歩いてたけど、こちらを見た途端に眉間に深いシワを寄せてきつく睨み付けてきた。


「……何をしてる?」

「あ、あの……約束のプリンを作りました。もしよかったら召し上がりますか?」


もしかしたら、私はものすごく厚かましいことをしてるのかもしれない。本当の妻でもないのに、仕事帰りを待ってなにかを食べさせようとするなんて。


ドキドキしながら伊織さんの返事を待っていると、ギシッと軋む音が聞こえる。見れば、伊織さんがダイニングテーブルに腰かけた音だった。


トントン、とテーブルを人差し指で叩いてる。どうやら食べてくれるらしい、とホッとしてトレイにグラスを載せた。


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